HADES and HEAVEN
後編
「企画…?」
兄の言葉に、天国は一瞬反応を遅らせた。
「…ふうん、物好きなとこもあるんだな。
知らないとはいえ、嫌いあってるオレらを使うなんて。」
驚きと戸惑いを隠すように、天国は視線をそらして憎まれ口を叩いた。
「物好キ…ダナ、確カニ。
天下ノ「DANY WINTZ」トモアロウモノガ。」
兄の出した名に、天国は再度驚いた。
「…DANY WINTZ…?」
それは世界に名だたるジュエリーブランドだった。
まだ天国も仕事をうけたことはなかった。
そんなところが…まさか自分と、そして兄に仕事を…。
そして、その名は兄が説得しに来た理由を天国に納得させるのは十分だった。
「…アンタも出世したもんだな。
……なるほど、そういうことか。」
天国は目を伏せると…どこか哀しいと感じている自分に気づいた。
まだ…自分は期待していたのか、と。
「……アンタがこの仕事を受けるのにオレがいるってわけか…。」
低く呟かれた声に、今度は黄泉が反応した。
「天国…。」
黄泉の言葉が口に出される前に、天国は言った。
「だったら尚の事だ。オレは復帰しない。」
「天国?!」
「オレはオレの意志でモデルを休業してる。
オレの意志でやりたい事をさせてもらってる!
それが周りの期待を裏切るとか、そんなことも覚悟の上だ。」
「天国…お前…。」
黄泉の口から、先ほどよりずっと自然な声が流れてきた。
「HEAVENの名を…捨てたいのか?」
「…捨てたい…そう思ったことはねえよ。
けど…捨てるのも、また始めるのも…決めるのはオレだ。
アンタじゃない。」
「天国…。」
黄泉は天国の確固たる意志を感じたのか。
口を閉ざした。
そして天国は黄泉の視線からそれるように横を向く。
「わかっただろ。
オレをダシにこの仕事をうけるのは、無理だ。」
すると。
「くくく…はははは!」
突然、黄泉が笑い出した。
「な、何だよ?!」
「お前、そんな風に思っていたのか?
お前にしては飲み込みが悪いな…。」
「はあ?何のことだよ!」
天国が怒りのままに振り向くと、そのまま顎をつい、と持ち上げられた。
そこに…自分とよく似て…でも全然違うまなざしがあった。
「オレはお前と仕事がしたい。
だからお前に仕事に戻って欲しい。
この仕事をきっかけにお前と、天国と昔みたいに仲良くなりたい。
…オレはそう言いに来たんだが?」
「はあ?!」
今度は天国が愕然とする番だった。
「それにダシにするとは心外だぞ。
もともと「DANY WINTZ」はオレにオファーを出してきたんだ。
お前を入れて欲しいといったのはオレだ。」
「何だって?!」
その事を聞いて天国は、急に恥ずかしくなってきた。
そして驚愕した。
兄が…「HADES」がそこまで大きくなっていたことに。
天国の複雑な表情を見て、何を思ったのか察したのか。
黄泉は話を続けた。
「言っとくがモデル一人の一存が通るほど「DANY WINTZ」は甘くない。
オレがお前の名を出したら、以前から使ってみたかったらしくてな。
まだ未成年だからと遠慮していたらしいが兄のオレと一緒なら問題はないだろうと
むこうもお前の参加を了承したんだ。
お前の実力を軽んじられてるわけじゃない。」
「……。」
フォローされたはいいが、どうも素直に喜べない。
「って、バレてんのかよ!?オレたちが兄弟だってこと!」
「ああ、オレがバラしたからな。」
「あ…アンタって人は…!!」
天国は頭を抱えた。
さすが自分の兄だけはある。
やることがもう…。
むちゃくちゃ。だった。
######
結局どうなったかというと。
「お前がこの仕事を受ける気になるまで、待たせてもらおう。」
とのたまってくれた兄は。
「それまでは日本で活動させてもらうからな。
ちょうどしばらくそうするつもりだったし。」
凱旋帰国したアメリカで最高の日本人モデルとして、日本と、天国の周辺を騒がすこととなった。
ちなみに滞在先は、天国のマンションである。
天国は、せめて家賃だけはしぼってやろうとか。
黄泉にとってはとことん小さい仕返しを考えていたのだった。
end
どっちかっていうとギャグ落ちになりました…最初はシリアスだったんですが。
でも、一応シリアスです。
今後はまた黄泉さん出てくるでしょうね…楽しいし。
月乃飛鳥さま、お待たせして申し訳ありませんでした!!
素敵なリクエスト本当にありがとうございました!
少しでも気に入ってくださるよう祈ります^^)
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